ロータリークラブの創設
1905年、アメリカのシカゴにポールハリスという若い弁護士がおりました。商売は繁盛していましたが、弁護士を訪ねる事件依頼人は、利欲のために大なり小なり嘘を言ってくるもので純真な心の持ち主のであった彼は非常に悲しく、淋しかったわけです。 そこでユダヤ人のクラブ、○○大学の卒業生のクラブ・・・たくさんのクラブがある中で、一業種一名のクラブを作ることを思いつきました。ロータリーは職業分類という点であらゆる会員が全く平等な立場にありますから、等差のつきやすいそれまでのクラブよりも評判がよく、会員は順調に増えていきました。
ロータリーと名付けられた理由
ロータリークラブは当初より会館を持たずあちらの職場、こちらのホテルと会場を変えていきました。この引っ越して歩く、回って歩くところからロータリーと名づけたのであります。はじめは奉仕を旗印としたわけではなかったので、ロータリーマークも引越しを表現する馬車の車輪」をつけていました。後に、職業奉仕の成果により、ロータリーは大きな信念を持つことが出来ました。相手の身になっての言動すなわち奉仕の理想は単に職業の成功ばかりでなく、より良い社会を作るのに大切な信条となり、この時車輪のマークから相互扶助のギアのマークに変えたわけです。
発足当初C1 現在CUUT
ロータリーマークの意味
奉仕の理想を中心として集まるようになったロータリークラブは更に、そのギアのマークの中央に鍵穴のような図形を加えました。これは鍵穴ではなく、心棒が滑らない為の穴であり、ギアの回転のエネルギーがこのシャフトによって外へ伝導されるように、ロータリアンの奉仕の理想が、ロータリアンの職業を通じ、生活を通じて、社会に影響を及ぼそうという理想と意欲を表現しています。
親睦の発展
一業種一人制は図に当たって会員は他人と思わぬような親睦の間柄となりお互いの恥を平気で話せるようになりました。しかも全員が事業家、職業人でありますから困ったことは相談しあう、慰めあう、進んではお互いに助け合い、ついには会員同士の取引やサービスの提供となって実利的にも便利な存在になりました。
ひとつの転機 アーサー・F・シェルドンの入会
シェルドンは経営学者で、「こんな仲間の利益ばかり考えている会は永続しない。広く社会的に有用な団体となる立派な旗印が必要である」と考えました。当時倒産相次ぐシカゴの街にあって商売繁盛を続ける商家のあることに気づき、その秘密を相手の身になって励むことと見つけて
「最もよく奉仕する者、最も多く報いられる」 He Profits Most Who Servers Best
の標語を掲げ、時を同じくしてフランク・コリンズが「超我の奉仕」Servers Above Self
を唱えこの二つが公式標語となりロータリーは団体としての性格を明らかにしました。
ロータリーの本質
今日のロータリーはポール・ハリスが思いついた親睦を目的としたクラブの活動の間から、自然発生的に奉仕が生まれ、展開してきたものであります。したがってロータリーの本質を、と問われれば「親睦の中から奉仕の理想を生み出す集団」と答えてよいかと思います。
ロータリアンにとっての「ロータリー」
成功した実業家の皆さんは、そう申しては失礼ですが、個人的な欲求の旺盛な方々です。こうした意欲的な人々こそ公共心、奉仕の理想が旺盛なはずです。しかし皆様は日常の業務に営々として、ほとんどわき目もふらぬ忙しさです。
したがって、何か世の中の為に役立ちたいと思っても、いつも目前の仕事にかまけて構想がまとまらず、実行に移せません。そこで皆さんのやむにやまれぬ善意を生長させ、実行の機会を提供するのがロータリーであります。
ロータリーの本質の存するところ
ロータリーの例会の一時間、それは皆さんの息抜きの時間です。業務の為に緊張した心も体もリラックスします。競争者のいない世界、警戒心を必要としない時間、ここではじめてわれに返り、反省が行われ、次第に本然の自分に帰ります。これが親睦から奉仕が生まれる過程でありロータリーの本質の存するところであります。
ロータリーの奉仕は個人個人の発意
奉仕の主体はロータリアン一人一人にあります。ロータリークラブはロータリアンに奉仕させる為のもので、団体として奉仕するのはむしろ本筋でないとされてきました。
役員一年交代の意味
例えば役員一年交代の点を考えてください。もし団体として奉仕するなら、適材適所で有能な役員を据え置いて数名のスタッフで、継続的に事業をするのが合理的でしょう。しかるに役員、委員の一年交代を実施しているのは会員に奉仕の勉強をしてもらいたい為です。出席をやかましく言うのもひとつはこのためです。奉仕事業団なら、これを協賛する人がお金を出せば事が済みます。しかし、ロータリーは皆さんの心の中にある奉仕の理想を高揚し、進んで奉仕ができる指導者になってもらいたいのです。
ロータリーへの批判
ロータリーはお金と時間がある人の昼めし会だと言われる向きがあります。こう言われた皆さんは「ロータリーは奉仕団体だ」と説明していると思いますが、果たして相手が納得するでしょうか。「地域に対して、たいしたことはしていないじゃないか」というのが一般市民の方々の反発でございましょう。あれだけ立派な社長や旦那や先生方が集まった会にしては、仕事の規模が小さすぎやしないか、と言われるかもしれません。私たちはこの批判を甘んじて受けてよいと思います。ロータリーの寄付や行為はそれ自身が目的ではなく、むしろそれを出発点として会員各自に奉仕を喚起し、またその問題に対する地域社会一般の関心を高めて、問題解決へ接近するものであります。
ロータリーは「大学病院」という考え方
大学病院は患者の診療もしています。その診療は診療そのものが目的ではなく、よい医者を養成するための実習であります。ロータリーはクラブが行う奉仕を通じて、会員をよき奉仕的人間に仕立てる為の訓練をしております。一人ではやりにくい奉仕もあります。また、どこに奉仕が必要か、これに対してどのように奉仕すべきかなどの調査研究が必要なことは医療の場合も同じであります。すなわちロータリークラブは奉仕への調査研究機関であると共に、地域の指導者であるロータリー会員に対する奉仕への訓練機関であるのです。寄付やその行為は訓練の過程のひとつのサンプルに過ぎません。
ロータリアンに必要なこと
ロータリーに参加し敢行する為には、まずロータリアンとしての誇りを思い、責任を感じなくてはなりません。例会には必ず出席し、会員同士はお互いに尊敬を交わしつつ友情を深めます。例会の出席が楽しくなった時、あなたの心に奉仕の理想が沸いてくるのです。
「善意」とは何であるか。
善意とは「人間同士の思いやりの気持ち」と解すべきでしょう。善意の反対は言葉のうえでは「悪意」となりますが、必ずしも当たっているとは思われません。悪意というよりは「利己心」というべきでしょう。
それでは「利己心」とは何か
それは自己保存の本能とつながり、人間の生命線であります。生存競争に打ち勝って社会に生き残り、浮かび上がる為にはこの利己的欲望が強い必要があります。しかし人間は社会的な動物でありますから、利己心を満足させるにも一人ではできません。これが為に生まれるつながりがいわゆる縦割りの人間関係であり、親分子分、先輩後輩、上司と部下、雇い主と使用人といった関係であります。
縦に対しての横の存在
生活そのものに直結した縦の関係は極めて強靭であります。しかし人間社会にはもうひとつ横の関係があります。隣人愛、博愛、友情などによって結ばれた仲間意識であります。他人の悲しみを共に悲しみ、友と喜びを分かち合い、困る人をみれば助けてあげたいという気持ちであります。
この横のつながりの絆をなすものがすなわち善意であります。
現代社会とロータリー
縦割りの社会は厳しいものであり、すさんだ世相を形成しますが、横のつながりの存在によってはじめて人の心は和み、平和な生活ができる温かな社会を作ることが出来るのであります。織物に例えれば利己心は縦糸、善意は横糸です。縦糸がしっかりしていなければ丈夫な織物は出来ません。しかしそこへ適当な横糸を織り込むことによって、布の温かさも、模様の美しさも織り出されるのであります。つまりある程度の利己心とそれをカバーできる善意が必要ということです。しかし物質万能の現代社会は人々を一途に利己心に駆り立て他を顧みるいとまがありません。他人をライバル視して社会連帯感が失われていく中、こうして生まれてしまった幾多のギャップを取り除く為にも、会員一人一人の善意が高揚し、個々の活動に期待をしているというのがロータリーの目的であります。
職業奉仕と善意
例会で育った親睦、善意を社会に向けて自分の職業を通じ広めようとして始まった職業奉仕であります。一番身近でやりやすかった場所である職場で、買う身になって売り、使う身になって作り、受ける身になってサービスすることによって、彼らは大きな収穫を得ました。それは第一に奉仕することの喜びであり、第二に自分の職場の社会的意義を知りその誇りを体験したことであります。相手を無視、軽視してただ自己本位で働いたとすればそれは職業でなく「商売」であります。
ロータリーが今日の隆盛をみたひとつの理由
この職業奉仕の実践によってロータリアンの事業は果然繁栄をきたし、いずれもその分野で成功をするようになりました。人間の両側面である利己心と公共心とがこの職業奉仕の理念によって両立することが証明されました。この実践哲学が世界中の事業家、専門家の心を捉え、その良心の悩みを癒すものがあることが、ロータリーが今日隆盛をみるに至った理由です。職業奉仕に成功したロータリアンはその善意の意義と力を確信したので、これは職業以外の場すなわち、家庭、地域社会に広げる必要を痛感し、社会奉仕の理念として展開していきました。
今日の社会奉仕
物資不足の時代には金品を贈るだけでも十分喜んでもらうことも出来ました。しかしこの豊潤なこの時代にはもはや財布だけの奉仕は一向にありがたがられず、むしろ一種の軽蔑として反感さえも買うことがあります。問題は財布の中に善意がどれくらい入っているかにあります。「施し」という言葉は、富裕階級の人々が己の罪滅ぼしの気持ちで貧困者に金品を恵むことを意味しています。これは善意から出たものではなく、自己防衛、いわば利己心のカモフラージュでしかありません。決してこれであってはなりません。
ロータリーは奉仕をする団体ではない
世間では、いや一部の会員の間にさえ、ロータリーは団体として寄付するすなわち寄付団体であると心得ている人があります。これは大きな誤りであります。奉仕をする団体ではなく、奉仕を志し、これを実践しようとする人の集まりです。ロータリーが協会とか組合といわずにクラブと名づける理由はここにあります。そもそもクラブというのは同好者の集まりの意味であって団体として事を行うのが目的ではありません。
ロータリーの役割
奉仕の理想を推進すべく集まった同好者である会員にその目的を達せしめる為に便宜をはかる世話機関がロータリーであります。奉仕のスケールが小さいと世評を受ける事もありますが、いわばこれは奉仕の見本であって真の奉仕は会員個々がやるべきであり、現にたくさんの実績をあげているのであります。究極は個人の奉仕に期待をかけているのがロータリーであります。
スマイルボックスの意義
善意を高揚し奉仕の実感を持たせる為には、その都度拠金に頼るのが本筋です。会費の中から奉仕事業費を出していたのでは、会員に奉仕をしているという実感を持たせることはできません。しかし、その都度集めるというのは実際上困難という面もありますので、ロータリーでは、スマイルボックス(ニコニコボックス)という制度ができているわけです。めでたいこと、うれしい時に湧き上がった善意をその場で具体化し、これをプールして全ての奉仕に充てるのです。このスマイルボックスの活用こそ最もロータリーを象徴するものであります。
社会奉仕委員会のあるべき姿
ロータリークラブの社会奉仕委員会は団体として奉仕事業を行うよりは個々の会員に奉仕してもらうよう仕向けるのが本来の姿であります。少なくとも社会奉仕の実践を通じて会員の善意を呼び起こし、奉仕の喜びを体験させ、奉仕の意欲をかき立たせるよう活動すべきでありましょう。委員会が会費の中から予算をもらって施設へ金品を贈るといったことはロータリーの奉仕とは申しません。奉仕活動には全員が、あるいは多数の会員が参加しなければ意味はありません。
国際奉仕とは
国際奉仕は自然発生的に生まれたもので計画的に企画されたものではありません。ロータリーの実践哲学が世界中の人々に賛成されて各国各地域にクラブが生まれ、お互いの奉仕の理想を基に手をつなぎ合うことによって生まれたものです。「戦争は人の心の中におきるものである」との理念から、この心の中の平和の砦はその人の善意の積み重ねによってのみ築かれるというのが国際奉仕の考え方です。これは国連の作ったユネスコと全く考えを同じくするものでもあります。
国際奉仕こそ未来の平和を約束する
ロータリーの国際奉仕こそ、未来の世界に平和を約束するものと考えられます。世界の166カ国に31600余のクラブを持ち、120万人の善意の同士をもつロータリーこそ世界平和の担い手たる資格があります。
ロータリーとは何か
ロータリーの終極の目的は人間関係を改善することによって、よりよい社会を作り、平和な世界を築くために貢献することにあると思います。
その人間関係の改善のためには一人一人の人間の善意を呼び起こし、奉仕の理想を発揚する必要があります。この奉仕の精神の発揚には、人間同士が深い信頼と友情によって結ばれる事が必要ですから、ロータリー運動の出発点は親睦活動であることが確かです。
例会出席によって親睦が生まれ、そこから奉仕の理想が高揚されるのですから、例会の一時間は楽しみながら訓練を受けられるロータリー独特の集会と言うことができます。こうして生まれた奉仕の精神を実践に移すにあたっては、会員の誰もが職場という身近な舞台を持っています。ここに職業奉仕が生まれます。しかもこの職業奉仕こそがロータリーの本質であり、また社会奉仕、国際奉仕の出発点となります。
ただ留意したいのはロータリークラブが行う奉仕活動は、それ自体が目的であるというよりは、むしろ、ロータリアンに奉仕の実地訓練をさせるものであるという点です。したがってロータリークラブは奉仕団体とみるより奉仕を志す者の集まりで、これら同士に奉仕を実践する勇気と便宜を与える為の機関であると言えるでしょう。
以上
抜粋文献 ・前原ガバナー講和集 ・「ロータリー入門」 前原勝樹 著
2002年改訂 重田政信 協力者 片岡暎子
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